真冬の身体
山梨県の富士吉田市は寒いです。最低気温がマイナス10度を下回ることもあります。
去年竣工した川口邸は、その富士吉田市に建っています。
極端な寒さから導かれたのは「気候をポジティブに楽しむ」ということです。
極寒の地でも、その寒さを楽しんでしまうような逆転した考えかたです。
北海道など寒冷地に行くと、よく風除室が付いている住宅を見かけます。
特に住宅における風除室は寒さの象徴です。
しかし風除室のサイズをどんどん大きくしていけば、もはや風除室であることを逸脱して温室のようなイメージにシフトすることができます。
温室は、暖かさの象徴のようなものです。こんなふうにして、川口邸では寒さということに対して特異なアプローチをしたのです。
温室のようなその部屋を「草部屋」と呼んでいます。
草部屋には、常緑のオリーブなどの緑をたくさん植えて、冬でも草木が生い茂る気持ちのよい部屋です。
そこでご飯を食べたら、毎食がピクニックのようだ!ならばここをダイニングにしてしまおう!という具合です。
このポジテヴィブさは、フィンランドでアアルトの建築から学んだこととも通じるものがあります。
アアルトの建築をいくつか訪れて感じたこと。それはデザインに対して、とにかくポジティブだということです。
アアルトの建築についての云々は、また別の機会にしたいと思いますが、あのポジティブさは、おそらくフィンランドのような極寒の地特有のもののような気がしました。
私が訪れたのは12月で気温はマイナス17度。マイナス12度の日には、フィンランド人は「今日はマイナス12度だからあったかいね!」と言っていました。
何というポジティブな発言・・・!
極端に寒い屋外から家に帰ってサウナに入るという体験を、真冬のフィンランドでやってみて、ああこれが真冬の身体だと思いました。
マイナス17度の環境下、体は骨まで冷え、毛穴も筋肉も全てがガチガチになり、極限状態になっています。
寒さによって極限状態になった身体は、サウナに入るとことで全てが解放されていきます。本当に解放された!という気持ちになります。
サウナというのは、熱いのをがんばって耐えて汗をかくというイメージしか持っていなかったのですが、真冬のフィンランドではじめてサウナというものの気持ちよさを知りました。 サウナは社交の場となっていました。サウナでは皆その気持ちよさを同じように共有しているのだと思います。
「気候をポジティブに楽しむ」くらいの気持ちをもちながら、建築や都市をポジティブにつくっていけたらと思うのです。
(保坂 猛)
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