冬の想い出・あるアナウンサーのこと

急に寒くなってきました。

ふとしたきっかけで何十年も忘れていた、とても些細な出来事を想い出すことがあります。

実家はいわゆる街の電気屋さんでした。電気製品といえば、私自身も家電量販店やインターネットで購入するのが当たり前になった現在では、あまり見かけなくなってしまいました。電池や電球等の小物の店売りから電気設備工事まで、いろいろやっていました。

大学時代は京都で一人暮らしでしたが、長期の休みには名古屋の実家に帰っていました。人手が足りないときなどには、たまに家業を手伝ったりもしました。想い出したのは、そんな冬休みのある日の出来事です。

東海ラジオの元アナウンサー、天野良春さん。私は今も昔もラジオの熱心なリスナーではないのですが、学生時代に帰省した際には天野さんの番組は時々聴いていました。仕事柄、車中でラジオを聴く機会の多かった父も彼のことを良く知っていました。人柄が窺われる穏やかな語り口も印象に残っていますが、なんといっても強烈だったのは、その音痴ぶりでした。ある番組では、彼のための歌唱指導がひとつのコーナーになっていたほどです。

彼が女性タレントのアシスタントを務めるその番組は土曜日の午前中に放送されていました。お昼少し前の時間に天野さんが毎週違う唄を1曲歌うコーナーがありました。年末の土曜日。仕事から自宅へ戻る車中、父と私はその番組を聴いていました。その日の出来は「最高」で、信号待ちの車のなかで私たち二人は涙が出るほど大笑いしました。冬の寒い日、車の窓はみんな閉まっていて、音は聞こえませんでしたが、隣の車をふと見て、私たちはその車でも同じ番組を聴いていることを確信しました。そこでも会社員風の二人が体を捩って大笑いしていたのでした。

(北川裕記)

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