海芝浦駅・タイムスリップ・コンビナート

数年前、area045を案内するためのリーフレットをつくった時に、「横浜の好きな場所」をテーマにそれぞれ写真を一枚掲載した。


僕がそのときに選んだ場所はJR鶴見線の終着駅・海芝浦駅だった。ホームの一方が海に面していて、もう一方は東芝の工場の門を兼ねたもので社員以外は立ち入り出来ない駅。


一方が海でもう一方は東芝、魚でもなく東芝の社員証も持っていない人間は、折り返しの電車で帰って来るしかない駅なのだ。多くの人にとって、その駅に行くためにしか存在しない駅。純粋な存在としての駅。


「タイムスリップ・コンビナート/笙野頼子著」を読んで、海芝浦駅を知った。文庫を引っ張り出して再読してみた。


マグロと恋愛する夢を見て悩んでいるある日、いきなり、電話が掛かって来て、海芝浦という駅に行けといわれる。電話は夢とも現とも結局判らない。が、ともかくその駅に出掛ける羽目になる。部屋のある都立家政の駅から東京駅(内装がやたらベニヤ板ではられている)を経て、その駅に向かう見慣れた風景が、見慣れない奇妙な風景として語られる。


あとがきに代わる対話に、リアリズム文学の役割として、見慣れないものを見慣れたものに変えることがあり、一方でポストモダン小説は、見慣れたものを見慣れないものにすることだとある。


笙野はそれを「もう一つの世界」とか「もう一つの現実」と呼んでいる。2009年、ポストモダンという言葉は、いささか気恥ずかしさを伴うが、「もう一つの世界」はここ横浜にもある。

(横山敦士)

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