粗く仕上げる

粗く仕上げるとは、綺麗過ぎない仕上げと言う意味です。

ところで、最近こんな失敗をしました。

マホガニーの角材を並べてテーブルの天板を作ることにした。期待をふくらませて現場に運ばれてきたテーブルを見て唖然としました。天板は端部を赤味材で縁取りされ、その間は綺麗な白太材でデザインされていたからです。

私は当然赤白混ざって、角材による構成が明確になっている天板を想像していました。誰が一体このようにデザインしようとしたのだろうか。そう、職人が勝手に気を利かせてしまったのだ。

高くつくテーブルなので一時はあきらめようとしたのだが、逆にそれだけのお金を払うのならば、気に入った物にして貰いたい。ここは心を鬼にして作り替えて貰う事にした。

では何故このような事が起こってしまったのか。

化粧材を多用して仕上げをする現代のフラッシュ家具工法で無垢材との違いを表現するために、上述したようなデザインを連想することは容易に考えられる。

一般に職人は物を綺麗に作る事が当然と思っているのですが、今回はそれが行き過ぎたようです。

話は変わるが、私の事務所では、住宅の壁を左官で仕上げるに当たり、事務所仕様のシックイと骨材で表情を荒らす仕上げを採用しています。その場合、最初に今まで仕上げた壁の例を見て貰い、その後材料のデータを示して試し塗りをして貰います。

メーカー品の指定された番号で、マニュアルどおりの仕上げに慣れきった体には、最初はとまどいがあるものの、材料の特性に慣れるにつれて、職人本来の面白さを感じ取っていくようです。

塗り方は始めに下塗りをし、次にそれを荒らしてゆきます。

職人によってやり方は様々ですが、木鏝、又はスタイロフォームで荒らした後、金鏝で軽く押さえて貰います。

この最後の押さえが重要で、これにより表情の荒々しさが空間全体の中で生きてくるのです。

テーブルの場合で言えば、シンプルで確かなプロポーションのもとに、全体が決まっていればこそ、赤白の混在した材料の集まりがデザインへと昇華されているのだと思います。

デザインは人により様々な考えがありますが、私の場合は、荒々しい素材の表情と、全体を構成する単純さとの両方を無意識の内に考えているように思います。

我が国には、伝統的にわび、さびと呼んでいる素朴な仕上げを尊重する考えがありますが、日本だけではなく、例えばイタリア語でもルスティコと言う、粗く仕上げた表情を表す言葉があります。

これを積極的に用いる場合はわび、さびに通じる意味になります。

いずれにしろ私の心の片隅にこれらに同調するものがあるのでしょう。

(池和田有宏)

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