杉本博司展 「時間の終わり」; End Of Time

以前から興味を抱いていた写真家;杉本博司の個展が東京・森美術館で行われている。ニューヨーク在住の日本人写真家、時間と光をテーマに国際的に注目されているモダンアートの写真家。写真家と言えば、やはり土門拳。仏像や広島をテーマに数々の作品を撮られている。その作品の迫力といえば、言葉には表現できないくらいすばらしい。その実物を見に酒田の土門拳美術館に遠路遥遥行ったことを思い出される。雑誌で見るものとはやはり迫力が違い、その強烈な印象はいまだ思い起こすと鳥肌が出るほどだ。光と影は建築を作る私もいつもテーマとしていて、その鋭さに感銘をおぼえる。まさに光と影の表現者として尊敬する作家。また杉本博司は光と影、そして時間をテーマに被写体を捉えた作品の表現。杉本の写真を初めに見たのが確か、ピンボケ写真のエッフェル塔。こんな写真があるとはなんとも不思議な印象をもった記憶がある。そのおおボケの写真にはなんとも不思議な魅力があり、見れば見るほど吸い込まれてしまうほどだ。このときは世界的な写真家・杉本とは知らず、後になってはじめてその偉大さを知ることになる。このエッフェル塔の写真はカルティエ財団が所有しているもので、ビップルームの会議室にかけられ、その部屋からは本物のエッフェル塔が望める。流石カルティエであり・芸術を愛する・理解する国ならではのことだ。そのほかいくつもの杉本作品をこのカルティエ財団が所有しているらしい。昨秋、「パリ・フォト」の写真フェアにあわせて、カルティエ財団美術館で杉本展覧会を行い世界中の注目を集めたらしい。今回、その展示が日本で行われると知って、願っても無い、見逃したら後悔する思いで、森美術館に足を向けた。実物の写真をみるのははじめて。期待以上の感動を受けた。杉本の写真はその表現方法に特徴がある。 まさに光・影・そして時間を一枚の印画紙に焼き付ける。モノクロ写真に表現された彼なりの世界観を体感できたような気がする。彼の作品には幾つかのシリーズがある。「Seascapes」;海と空の風景をさまざまロケーションにて撮影。なんともシンプルは構図のなかに無限大に広がる奥行感が表現されている作品。[Theaters];映画館内部を撮影したもので、スクリーンに投影された映画一本分の光の照り返しのみで撮影されたもの。一コマ写真の連続である映画をワンカットに集積した作品。被写体であるスクリーンは白光し、客席の人物はその存在を消されたミニマムな表現手法。 [Architecture];建築をテーマに撮影。実は私が興味を一番もったのがこのシリーズ。建築を志すものとして、この写真の概念に大変感銘をおぼえた。その写真はまさしくおおボケ写真だ。先程のエッフェル塔と同じ手法にて撮影されたもの。代表作として「コルブのサボア邸」「テラーニのモニュメント」「サーリネンのMITチャペル」「ミースのシーグラム」その他数々の建築をテーマにおおボケ写真を撮っている。杉本が強い関心を抱いていたのが、実像としての建築ではなく、建築を創るプロセスにおいての建築家のイメージであるらしい。その技法は焦点を無限遠の2倍に設定し、建築の輪郭をぼかし、デーティルを失わせ、建築家の脳内で発想されたイメージを、また強靭なフォルムだけを印画紙の上に焼き付ける。ここまで建築を表現した、もしくは建築家のイメージを捉えた建築写真はないと思う。

そのほかのシリーズもあるが、まずは杉本写真の魅力を実眼で堪能してみては・・・・今回、建築よりのコラムになってしまいましたが、ほんとうに見る価値ありです。一般の方にもその迫力はきっと解るはず。建築家が考えていることの一側面が伺える個展でした。

(田井勝馬)

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