自然環境と形態/植物から学ぶ「住まいの理想形」

ここに、「図説/野菜の生育 本物の姿を知る」という1冊の本があります(藤井平司著、農山漁村文化研究所刊)。

この本は娘達がまだ小さかった頃、家族で市民菜園をしていた時代に入手したもので、野菜の育て方についてのお手軽なハウツー物の多い中で、筋金入りの逸品と言っていいのではないかと私は思います。

例えば極めてポピュラーな「ダイコン」について興味ある一部を拾ってみましょう。

あがり系のダイコンは、主として水田や海岸、川岸の砂地で作られ…陽光熱の照り返しがあるので葉が立性である…翼葉はブラインドのように、隙間を作って並んでいる。まさに砂場特有の熱気に対応した葉である。…地温の低い山地性で、「息吹」や「支那青」やらの辛みの強いダイコンがある。それは地温が低い関係で、葉は立たずに開張性か伏性(ロゼット様化)になっている。

22頁にわたるダイコンの項の最後には、こう書かれています。

『土地柄を無視した品種育成』は、現在の多肥料、多農薬、多潅水によりどんな品種でもどこにでも『適する?』ようになっている。

「ニンジン」についてはこう解説しています。

ニンジンの葉は葉片が細いから、何枚重ねても小さい葉片の重なりが少ないものである。つまり密植性である。しかも葉片の先がとがっている。…葉上の水切れがよく、風の通りも良くて『さわやかに育つ』ようになっている。本名は「セリニンジン」という。もとは水に近いところで群生していたものである。…そのニンジンを不適地の畑でムリヤリに育てている。…だから多肥料、多農薬で更に除草剤まで使用する栽培方法が必要となる。

筆者の鋭い観察の記述を読み進むと、私達は、植物(作物)が、それ自体の中に「環境と共生する仕組み」を見事に備えているのを知ります。茎の伸び方、葉の形、その生え方の秩序、その他もろもろがその為の仕組みであるということを再認識させられます。これを無視する植物の育て方には、膨大な肥料、農薬、潅水そして除草剤が必要になるという訳です。

これらの記述が住まいづくりのあるべき姿を私達に教えてくれていることに、心ある皆さんはもうお気付きのことと思います。本書「まえがき」の中にある「形態は、環境との複雑な相互作用の中で仕上がった姿である。」と言う植物について述べた言葉はそのまま、私達の「住まいの理想形」を示しているように私には思えるのですが、皆さんのご感想は如何ですか。

(野口泰司)

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