娘の子ネコを50日ほど預かって学んだこと。


一昨年の12月初め、娘夫婦のアパートの庭に迷い込んだ生後2ヵ月程の子ネコ。寒かろうと庭先に用意したタオルを敷いたダンボール箱で子ネコが一夜を明かした翌朝、お腹をすかしているに違いないと、娘は食事を用意して、家の中に戻った。振り返ると、なんと、子ネコが必死ではき出し窓の網戸によじ登り訴えているではないか。網に爪を引っかけてもがいている!娘はあわてて外に出て、子ネコを抱いて家の中に入れた。あまりにも可愛くて、可哀そうで、結局それ以来、その子ネコは娘夫婦の家の住人、正確には住ネコになってしまった、と聞いている。 昨年暮れ、娘夫婦は、駅から離れ大分奥まった所だが、環境がとてもよいと気に入って手に入れた中古住宅に引っ越した。そして、何年か後の建て替えまでの間とは言え、最小限の耐震補強はしておいた方がと私が計画した設計図にそって、(造園の設計施工を職業にしている)娘夫婦は自力で改修工事に着手することになった。その間50日ほど、娘夫婦の子ネコを、我が家で預かることになったと云う訳である。 娘夫婦もそうだったが、我々夫婦は犬やネコなど飼ったことがない。私は一寸不安であったが、妻は満更ではなさそうで、むしろのりのりの様子とも見えた。 1才ちょっとの茶トラのオス。顔が小さめなので、幼く見えるが、足腰まわりは、娘夫婦の所に迷い込んだ頃からすると、ずいぶん逞しくなっていた。 娘や妻が、私からすると甘やかし過ぎと思うので、厳しくすべきは厳しくと、心を鬼にして、心掛けたのだが、私が新聞やテレビを見ているとスッと膝の上に乗ってきてしきりに毛づくろいしたり寝てしまったりする。 日向では手足を伸ばし時には仰向けになって気持ち良さそうにのびのびしているが、日が陰ると電気ヒーター前の椅子の上で身体を丸くして小さくなっている。 甘えん坊でおとなしいのだが、さすがにトラやヒョウの仲間、その運動能力は凄い。1.5mくらいの箪笥の上にピョンと飛び乗ってしまうし、玄関から食堂を抜けて、和室までを強烈なスピードで駆け抜けたりする。 棒の先の糸につけたカシャブンを左右に振って誘うと、物陰に身を隠し、これを狙い、一気に飛び出し、これを襲う。凄い勢いで追いかけたりジャンプして飛びかかる。 一方、窓の外をベランダ越しに長時間ジッと身動きせず見つめていたりする。何を思っているのだろうか、その風貌はまるで哲学者のようでさえある。 柔和な顔をしているが、困ったような表情を見せたり、時にはその目付をキラリと鋭く変貌させたりもする。意思に反することを強いると、手足で反抗したり、本気ではないにしても手を噛んだりしてくる。 付き合ってみると、無条件に愛らしくいとおしい。我々は明るいテーブルで食事しているのに、子ネコが暗い玄関土間に続く板張りの床で食事する後ろ姿を見て、何だか可愛そうな気さえしてきた。動物を飼う人の気持ちを初めて、心底理解した。人間のエゴで、飼うのだから、大事にしてあげないといけない。狭いケイジに入れ、陳列して販売する店を目にしたりすると、ああ、こんな扱いをしてはいけない、と心から思うようになった。 地球上に生きる動物全てが、お互いを大切にして生きていかないといけない、と改めて子ネコに教えられた。

(野口泰司)

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